戦争とは郷愁との戦い


 終戦直後の夏、当時のソ連によって抑留され、強制労働に苦しみながらも絵の具箱を手放さなかった人がいます。  

 それは、帰還後に「シベリア・シリーズ」を描いた昭和を代表する洋画家の香月泰男さんです。  香月さんは、当時をこう振り返っています。 

「生命そのものが危険にさらされている瞬間すら美しいものを発見し、絵になるものを発見せずにはいられなかった」  

 そんな自分をこう書き残しています。

 「絵かき根性のあさましさ」  

 しかし、そうであったからこそ逆境でも自分を保っていられたのでしょう。  

 香月さんは、ソ連ばかりでなく日本の戦争指導者への怒りも隠しませんでした。香月さんには、こんな作品もあります。  

 粉雪が舞うなか、兵士のデスマスクを紙が覆っています。その紙には、国への忠誠を説く「軍人勅諭」が記されています。  

 まさに、国家権力への痛烈な批判です。  

 その一方で、凍土に葬られた戦友が雪解けで現れたさまを暖かい色で描いています。これは、仲間の鎮魂を描いたものです。  

 香月さんにとって、戦争とは「郷愁との戦い」だったようです。  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

0コメント

  • 1000 / 1000