官僚は何かの部品ではない
休刊(1986年)になった雑誌「歴史と人物」は、太平洋戦争に従事した軍人の証言録が〝売り物〟でした。
ベストセラーとなった「独ソ戦」の著者である大木毅さんと戸高一成大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)館長は当時、その証言を集めた若手研究者です。
2人が当時の見聞を語った対談本「帝国軍人」は、今に通じる含蓄に富んでいます。
そこには旧日本軍の将兵たちが戦時中や戦後でも、いかに報告や公文書、日記、回想録、証言などで改竄や嘘、誇張を重ねてきたかという〝苦々しい秘話〟が満載されています。
たとえば日本軍が女性や子どもを含む島民400人以上を虐殺したインドネシア・ババル島事件では、広島第5師団の報告書は3回も作り直されています。その赤裸々な事実描写が、最後は「止むを得なかった」という〝釈明〟に変えられているのです。
元陸軍将校の親睦団体「偕行社」が戦後、南京事件の証言集をまとめたとき、「悪いことをした」という告白が少なくなかったといいます。
ところが、「謝罪するしかない」と筋を通した編集責任者は辞めさせられ、当たり障りない「南京戦史」として刊行されているのです。
こうした言動は官僚体質と言えばそれまでですが、2人は多くの当事者に会った経験から「事実をねじ曲げた軍官僚はそれぞれに動機や事情を抱えていた」と明かしています。
官僚といえども人であり、没個性の何かの部品ではありません。
森友問題をめぐる財務省公文書の改竄の真相を求めて、自殺した近畿財務局職員の奥さんが提訴しています。
訴えられた佐川宣寿元国税庁長官は、こう争う構えです。
「公務員個人は職務に関わる賠償責任を負わない」
しかし、佐川氏の意思と信条抜きには今回の事件は起きなかったでしょう。
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