デカメロンが嘆く疫病の地獄絵
中世イタリア(フィレンツェ)の詩人で、散文作家でもあったジョヴァンニ・ボッカッチェがまとめた物語集「デカメロン」には、14世紀フィレンツェで起こったペスト流行のことが書かれています。
「人間の知恵や見通しも役に立たず、病人が街に入るのを役人が禁止しても、各種の予防法を講じても、信心深い人々が恭しく神に祈りをささげても少しも役に立たず、疫病は猖獗になってきました」 猖獗とは悪い物事がはびこり、勢いを増して猛威を振るうことです。
「デカメロン」はダンテの「神曲」に対して「人曲」とも呼ばれ、ギリシャ語の「10日」(Deke Hemeral) に由来して「十日物語」とも和訳されています。
この本ではペスト流行について、住民の半数が死んだ街から郊外に逃れた10人が1人1話ずつ10日に渡って語った100話を集めた体裁を採っています。疫病の地獄絵を背景に語られているのは艶笑や風刺に満ちた陽気なストーリーで、人間精神の解放であるルネサンスの先駆けとされています。
従来の知識も信仰も通用しない疫病の恐怖や悲惨は、その衝撃により人類の文化に大きな痕跡を残してきました。世界保健機関(WHO)は、新型肺炎コロナウイルスの流行について「緊急事態宣言」を出しました。日本政府も、これを指定感染症にする政令の施行を繰り上げて法的に強制入院措置ができるようにしています。
人の見通しも、病人の立ち入りを拒む役人も役に立たないというデカメロンの嘆きは、今日の人類にも無縁ではないでしょう。今こそ、国内での感染拡大を想定した医療・防疫態勢へのシフトを準備するときです。
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