自分の影があちこちでうろつくネット社会

 さて、ネット社会と個人情報――。  

 フランス出身のドイツの詩人で、植物学者でもあったロマン派の作家アーデルベルト・フォン・シャミッソーの作品に「影をなくした男」があります。  主人公は、奇妙な灰色の服を着た男から「どんな錠前でも開けられる鍵」、「使っても戻ってくる不思議な金貨」、「広げれば食べたい料理が出てくるナプキン」、「望みをかなえる魔法の草」など望めばどれももらえます。  

 最終的に選んだのは、金貨がどんどん出てくる幸運の金袋でした。その対価は、自分の影を譲り渡すことでした。  主人公は自分の影を持ち去られ、すぐに影がないと人間あつかいされないことに気づいて後悔します。  灰色の服を着た男の正体は悪魔で、狙いは人間の魂だったのです。  

 物語では、影は魔法の金袋と交換されています。これを今の時代に当てはめると、ネットで魔法のようなサービスを利用するうちに知らぬ間に自分の「影」、つまり個人情報を譲り渡していることと似ています。  

 今は勝手に売買された自分の影が、あちこちでうろつく時代です。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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