失われた時を求めて
プルーストの小説「失われた時を求めて」に、とても印象的な場面があります。それは語り手が、紅茶に浸したマドレーヌの風味から少年時代を過ごした田舎町の記憶を蘇生させる挿話です。
このくだりを読むと、ふだん気にも留めないような味覚、嗅覚、聴覚から埋もれていた過去が、奇跡のように立ち上がります。
これと似たような経験を持つ人も、多いことでしょう。
なお「プルースト効果」とは、この「無意志的な記憶」を指しています。
ふと蘇った遠い思い出は幸福感で満たしたり、時に苦しめたりします。
死に別れた人々に再び声を与え、彼らを懐かしむ記憶の風化に抗う被災地の慰霊碑のような作品です。
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