「GoToトラベル」は「風邪の神送り」


 江戸時代の享保年間、インフルエンザと思われる風邪が流行ったときの記録が残っています。

「人々は藁で疫神をつくり、鉦太鼓を鳴らし、囃子つれて海辺に至る」

 もちろん、藁の疫神はそのまま海へ流されています。

 こうした「風邪の神送り」では、町内こぞって「送れ、送れ、どんどと送れ」と囃子立てています。

 やがて「風邪の神送り」は風邪が流行した際の恒例行事となっていますが、人々の願いとは逆に感染を広げる結果になっていたといいます。

 まさに、感染症の知識のなかった時代の悲しい過ちです。

 落語では流した「風邪の神送り」の張りぼての疫神が夜の海の漁網にかかり、「弱み(夜網)につけ込む風邪の神」というオチがつけられています。

 感染症が知識の空白や医療体制の手薄さなど人の弱点に容赦なくつけ込んでくるのは、昔も今も変わりないはずです。

 新型コロナウイルスの感染の拡大で、各地から医療体制の逼迫への不安が伝えられています。この勢いで感染が広がると、不安が現実になるのは避けられないでしょう。

 そうなると、緊急に治療が必要な他の致命的な疾患への対応もできなくなる恐れがあります。

 奇妙なのは、人の移動を奨励する「GoToトラベル」への政府の見直しが中途半端なことです。

 菅首相はみずから推進した「GoToトラベル」が感染を広げた証拠はないと言い張っていますが、経路不明の感染が急増するなかでわざわざ人の移動を促進することはないはずです。

 旅行・観光業界も、今の感染拡大を止めずに明るい先行きは見えてきません。善かれと思った施策でも、そこにもし過ちがあれば容赦なくつけ込んでくる新型コロナウイルスという「風邪の神」です。

 今こそ、人の側がこの先のリスクの認識を共有すべきでしょう。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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