喉を広げて秋を感じる


 

 コロナ禍の感染防止のため、今年はマスクをつけた生活がずっと続いています。

 たとえば夏のマスクのなかは、蒸れと汗に悩まされました。さらに、生活していると感じるはずの季節の移り変わりや匂い、香りを味わえませんでした。

 これが、意外と辛いのです。

 生きている世界から自分の五感の一部が遮断された生活が、心の平穏をじわじわと乱していくことになるとは想像もしていませんでした。

 今秋、マスク生活が我慢できなくなり、自宅近くの川沿いの遊歩道を散歩しながら思い切ってマスクを外してみました。

 もちろん、周りに人がいないことを確認してからです。

 すると、最初に少し乾いた、確かに秋らしいひんやりした風がゆっくりと頬をなでていきました。

 そして、土の臭いが混じったような紅葉の香りの粒が鼻腔に入ってきたように感じました。

 それは、広葉樹の落ち葉を足で踏み締めた音が足元から聞こえてきたのと同時のできごとでした。むろん、寒ツバキの赤い花弁もいつもより輝いて見えました。

 コロナ禍の「新しい日常」は、我慢だけではつまらないものです。

 たまには散歩中にマスクを外して、喉を広げて季節を感じてみましょう。

 やってみると、何と気持ちのいいことかがわかります。「新しい日常」には、小さな楽しみも見つけて加えたいものです。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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